会社で研究職となった人の仕事に特許を書くという仕事があります。
しかし、最初は特許を書くことに戸惑いを覚えます。
特許にはいくつかのルールや制度があるからです。
とくに、新規性と進歩性を理解することは非常に重要です。
この記事では新規性と進歩性についてご説明したいと思います。
請求項について
特許を書く際にもっとも重要なことが請求項です。
請求項によって守られる発明の範囲が決まってきます。
例えば下のようなものです。
「一つ以上の色を発色出来る画面を有する置き型テレビ」
つまり、普通のテレビのことを示しています。
この請求項に該当するテレビを他社は作ることは出来ません。
新規性について
では、ここからまずは新規性についてご説明します。
上の請求項があったとき、次の請求項を持つ特許は認められるでしょうか?
「白と黒のみが発色される画面を有する置き型テレビ」
白黒テレビのことですね。この請求項は認められるでしょうか?
結論から言うと認められません。
理由は新規性が無いからです。
新規性の考え方
では、新規性のあるなしをどのように考えればよいのでしょうか?
まず、普通のテレビの請求項を要素ごとに分解してみます。
すると以下のようになります。
①「一つ以上の色を発色できる画面を有する」+②「置き型テレビ」
つづいて、白黒テレビの請求項を分解してみましょう。
①’「白と黒の色のみが発色される画面を有する」+②’「置き型テレビ」
どちらの請求項もざっくりと二つに分けることが出来ました。
さて、ここで先に②と②’を比較してみましょう。
言うまでもなく同じ内容です。
続いて①と①’を比較してみましょう。
①は一つ以上の色を発色する、①’は白と黒の色のみが発色される
となっています。
文字としては異なることが書いてあります。
しかし、①は一つ以上の色を発色するとあるように、①’の内容を含んでいます。
この場合、①≒①’となります。
結果、①’と②’どちらも①と②と同じ内容とみなすことが出来ます。
このように請求項に書かれた内容が以前だされた特許と同じないようであると判断されると新規性無しと判断され特許化を却下されます。
新規性ありの場合
では続いて新規性ありの場合を見てみましょう。
以下の請求項を考えてみましょう。
「一つ以上の色を発色できる画面を有する持ち運びが出来るテレビ」
携帯などに着くワンセグがイメージしやすいでしょうか?
この請求項の場合はどうでしょうか?
結論から言うと、この請求項は新規性ありとみなされます。
理由を考えてみましょう。
先ほどと同じように請求項を分解します。
①”「一つ以上の色を発色できる画面を有する」+②”「持ち運びが出来るテレビ」
このように分解できます。
普通のテレビの請求項はこう分解できました。
①「一つ以上の色を発色できる画面を有する」+②「置き型テレビ」
比較してみましょう。
①と①”は同じ内容です。
では②と②”はどうでしょうか?
「置き型テレビ」というのは通常持ち運ぶことを想定されていません。
そのため、「置き型テレビ」と「持ち運びが出来るテレビ」は異なるものであると判断できます。
そのため、「一つ以上の色を発色できる画面を有する持ち運びが出来るテレビ」という請求項は新規性を有しており、特許化出来ると判断できます。
新規性のまとめ
以上をまとめると、新規性を有するにはすでに出されている請求項と異なる内容の請求項を有する必要があります。
つまり、すでに特許となっている発明の請求項が「A+B+C」という要素で構成されている場合、新規性を有するには「A+B+C」以外の、例えば「A+B+D」といった請求項である必要があります。
ちなみに、例として取り上げませんでしたが、請求項の構成が「A+C」という場合も新規性はありません。
進歩性について
進歩性が特許のなかでは最もやっかいかもしれません。
進歩性というのは、発明内容が容易に思いつかないかどうかを判断したものです。
進歩性が認められない場合には大きく二つの種類があると思っています。
①従来技術の組み合わせ
②周知の事実
従来技術の組み合わせ
特許では従来技術の安易な組み合わせは、特許として認められません。
進歩性がないと判断されるからです。
例えば、とある二つの特許の請求項が以下のようなものだったとします。
①「車輪が付いた大型のカバン」
②「音楽が大音量で流れる機械」
①はスーツケースのこと、②はスピーカーです。
ここで、下の請求項を作ってみます。
「小さい音楽が流れる機械を有する車輪が付いた小型のカバン」
どうでしょうか?
「小さい音楽が流れる機械」なので②の「大音量」と異なります。
また、「小型のカバン」なので①の「大型のカバン」とも異なります。
①②の請求項と合致しないため、新規性はありそうです。
ですが、①と②から誰でも考え付きそうですよね?
特許を審査する審査官がこれは①と②を知っていれば誰でも考え付くだろう、と考えた場合新規性があったとしても特許化は認められません。
発明内容が容易に思いつくから、つまり進歩性がないからです。
周知の事実
特許の内容が周知の事実の場合も特許化しません。
例えば、
「火を使うことで物を温める装置」
という請求項を書いたとします。
これは特許になるでしょうか?
火を使うことで物を温められるということは常識です。
そのため、周知の事実を書いているだけなので、発明内容が容易に思いつき進歩性が無いと判断されます。
進歩性のあるなしの判断
以上、進歩性が無い例を挙げました。
しかし、進歩性があるかどうかを適切に判断することは非常に難しく、悩ましい作業となります。
理由としては、進歩性のあるなしの判断は審査官がするからです。
そして、審査官は専門的なことを理解している訳ではありません。
そのため、専門家からしてみたら簡単に思いつかない発明を簡単に思いつくと判断することがあります。
逆に、専門家からしてみたら簡単に思いつく発明を進歩性ありと判断し、特許化を認めることもあります。
では、運に任せるしかないのかというと、そうでもありません。
審査官が進歩性を判断する際には、基本的に過去に出された特許や論文を参考にします。
そのため、過去の論文や特許から、自分が書いている請求項が進歩性ありと判断されるかどうかはある程度予測できます。
ですから、進歩性のあるなしを事前に判断する場合は過去の文献などを探す必要があります。
進歩性のまとめ
発明内容が簡単に思いつくかどうかで、進歩性のあるなしが判断されます。
そのため、過去の特許や論文の内容を組み合わせただけの特許や、周知の事実を利用した特許は進歩性が無いと判断されます。
ただし、進歩性のあるなしを判断するのは審査官です。
そのため、専門家にとっては思いつかないような発明を進歩性無しと判断し、
専門家にとって容易に思いつく発明を進歩性ありと判断することがあります。
進歩性無しと判断されないためには、過去の論文や特許を調査し簡単に思いつくと思われるかどうかを考えると対策しやすくなります。