特許を読んでいて明細書に書いてある数値の意味に疑問を持ったことはないでしょうか?
特許において数値は非常に重要な意味を持ちます。
そのため、特許を書く際の数字はよく考えて書かなければいけません。
この記事を読むことで、特許における数値の効力と、補正時における数値の意味をお伝えし、特許で書かれた数値の意味を理解できるようになります。
特許における数値の意味
特許における数字の意味は場所によって異なります。
①請求項中
②請求項以外
この二つで何がことなるかをご説明します。
請求項中の数値の意味
請求項中の数値は、その特許が権利を持っている範囲を意味します。
例えば、
「150 km/時以上の速さでボールを投げる装置」
という請求項を持つ特許があったとします。
この場合、たとえ他社が155 km/時のボールを投げる装置を開発できたとしても特許にはなりません。
新規性が無いからです。
また、200 km/時という際立った速度のボールを投げる装置を開発した場合は、特許を取得できるかもしれません。
しかし、実際に販売することは出来ません。特許侵害となるからです。
新規性と進歩性の基本的な内容はこちらの記事を。
進歩性と特許侵害の話をこちらの記事を参照ください。
逆に、この特許なら140 km/時までしか投げられない装置の特許は取得できます。
このように、150 km/時という数値が特許の有効な範囲を決めています。
そのため、請求項に記す数値というのは、有効な特許の範囲を規定するために重要であり、なるべく広い範囲をものに出来る数値にした方が良いのです。
請求項以外での数値の意味
請求項における数値の重要性は上記に示しました。
では、請求項以外の数値はどのような意味を持つのでしょうか?
先ほど、請求項ではなるべく広い範囲をものに出来る数値にした方が良いといいました。
しかし、あまりにも広すぎると審査官からもっと小さくしろ、や場合によってはその請求項を削除するよう命じられます。
こういった減縮に対して、請求項以外の数値が効力を発揮します。
もう一度先ほどの例を見てみましょう。
「150 km/時以上の速さでボールを投げる装置」
という請求項でした。
この請求項を持つ特許を審査する場合、下のような判断がなされる可能性があります。
「請求項に上限が無く、非現実的な10000 km/時の場合も含まれる。つまり、請求範囲が広すぎるのでこの特許は拒絶する。」
もし、請求範囲が広すぎるという理由で特許が拒絶された場合取れる手立ては二つです。
①拒絶された請求項を取り消し、一段下の従属項を請求項1にする。
②請求範囲を狭くする
③拒絶理由を否定する
①の場合は単純に指摘された請求項を諦めるだけです。
③の場合は拒絶理由が間違っていることを指摘して、自らの正当性を主張します。
一方、②の場合に請求項以外の数値の意味が効いてきます。
例の場合を考えると、請求項に上限を追加することで許可されそうです。
しかし、上限値を勝手に決めることは出来ません。
つまり、
「150 km/時以上、300 km/時以下のボールを投げる装置」
というように上限を決めることはできません。
理由は、新規事項の追加が補正する際は認められないからです。
一度特許が拒絶された場合、出願人は②のように請求項を補正して再度提出します。
しかし、補正にはルールがあります。
その一つに新規事項の追加の禁止があります。
新規事項の追加の禁止とは、明細書に書かれていないことを追加することを禁止するということです。
今回の場合は、300 km/時という数値の根拠が明細書にないので、上限に書いてはいけないと判断されます。
このように、特許を補正する際に請求項以外の数値が重要となってきます。
上記の補正の例も、明細書に「300 km/時以下のボールを投げる装置を開発した」ということが書かれていれば問題ありません。
しかし、実際はそう簡単ではありません。
もし明細書に300 km/時のことが書かれていたとしても、実施例で200 km/時の場合しか書かれていない場合、300 km/時の根拠がないとして再度拒絶されかねません。
そこで、明細書には一工夫として、「好ましくは」といった表現が使われ、数値が羅列されていきます。
具体的には下のような感じです。
「上限を300 km/時としてよく、好ましくは250 km/時、より好ましくは200 km/時、より好ましくは200 km/時 ・・・の速さのボールを投げる装置」
のような感じです。
まとめ
請求項中の数値の意味
請求項中の数値は、特許の権利の範囲を意味します。
数値が狭すぎると、特許の権利範囲も狭くなるため、広い権利範囲を取れる数値を考えましょう。
請求項以外の数値の意味
請求項以外の数値は、特許の補正の際に重要になります。
特許の補正時には明細書に書かれたこと以外は請求項に足せません。
そのため、明細書に請求項が広すぎるといった理由で拒絶された場合に、より狭く出来るような数値を書いておく必要があります。